添乗員の仕事は「好き」でなければ続かない――その意味
添乗員資格の取得に向けた講習の中で、ベテラン添乗員さんが、ふと
「この仕事は、好きでなければ続けられません」
少し厳しめの口調で言われたのが印象的でした。
至極もっともな言葉です。
けれどその“本当の意味”がわかるのは、実際に添乗員として現場に立ってからではないか、と今は思います。
見えにくい初期投資
まず、意外と多いのが「お金」を使う場面です。
添乗業務に必要な経費は、原則として会社から支給されます。
それでも、最初の段階ではどうしても自己負担が発生します。
資格取得のための費用。
制服が支給されない会社であれば、スーツの準備。
会社ロゴが目立たない、きちんとしたかばん。
新人だから荷物が多い、というわけではありません。
添乗に出る際には、金銭関係の書類、マニュアル冊子、旅行会社から支給される用紙や入場券、iPadなど、常に多くのものを持ち歩く必要があります。
それらをバインダーやファイルにまとめ、
「常に携行している状態」でなければなりません。
なぜなら、私たちはお客様に
「貴重品は必ずお持ちになって、バスを降りてください」
とアナウンスする立場だからです。
自分自身がその意識を持っていなければ、言葉に説得力はありません。
さらに、行き先が増えていくと、その土地や季節に合わせた服装も必要になります。
派手さは不要ですが、「行き先にふさわしい身だしなみ」は求められます。
説明会では、
「昼食は支給されます」
「交通費も請求できます」
「日帰りツアーで、翌日も同じお客様と一緒になることはほぼありません」
「だから、服装も毎回変える必要はありません」
と説明されました。
けれど、実際に現場に立つと、そう単純ではありませんでした。
そこは「サービス業」ということもあり、お客様の困りごとに対応できるよう、或いはより楽しんでいただけるよう、実費で購入してもっていったものもあります。
(例えば、車酔いされる方のために袋を用意したり、案内先で足湯を見つけたときには、自分でウエスを用意していったりもしました。)
「時間」を使う仕事
「好きでなければ続けられない」と言われる理由のひとつは、
この仕事が想像以上に時間を使う仕事だからです。
添乗員の仕事は、ツアー当日だけでは終わりません。
一つのツアーにつき、
・事前の打ち合わせ
・ツアー当日の添乗
・事後の精算業務
この三つのために出社が必要になります。
私の場合、会社もツアーの出発地も名古屋だったため、
ツアーが一本入ると、
打ち合わせで一日、
添乗で一日、
精算で一日、
合計三日、名古屋に行くことになります。
それぞれの業務時間には、きちんとお給料が支払われます。
ただし、朝起きて電車に乗るまでの時間は、当然ながら含まれません。
私は出勤ラッシュを避けたかったため、毎回始発で向かっていました。
遠方から出社されている方は、本当に大変だと思います。
中には、何本か電車を乗り継いで来られるかたもいらっしゃいます。
(添乗員は、基本的にツアーの日は自家用車で来ることはできません。)
求められる精神力
そしてもう一つ、
この仕事を続けるために欠かせないのが「精神力」です。
添乗員の説明会でも触れましたが、
ツアーには大小さまざまなトラブルがつきものです。
何も起きないツアーは、ほぼないと思っていいでしょう。
例えば、受付の時点で起きることもあります。
時間になっても来られないお客様。
寝坊による当日キャンセル。
受付は済ませたのに、隣の別ツアーについて行ってしまったなどのケースもあったそうです。
途中の休憩地では、時間になっても戻ってこられない方。
バスのリクライニングを倒したことで、後ろの方ともめてしまった話しも聞きました。
座席割り、食事会場での席順、宿泊先での部屋割り。
どこでクレームが発生しても、不思議ではありません。
極めつけは、ツアーの最後に配布されるアンケート用紙です。
「ここぞ」とばかりに、率直な意見を書かれる方もいらっしゃいます。
それを見ずに提出できればよいのですが、
実際には、添乗員自身が集計を行い、会社に報告を上げなければなりません。
金銭の収支報告書に加え、
実際のツアールート、
各地で起きた出来事、
次回添乗する人へのアドバイスや注意点。
それらを清算日までにまとめる必要があります。
慣れないうちは、あらゆるところに神経を使います。
そして会社に戻れば、
「至らなかった点」についての厳しい指摘が待っていることも少なくありません。
そのたびに、精魂を使い果たすような思いをしました。
いまだ、心労に対してのフォロー体制は十分とは言えず、
個々の添乗員の自己管理に委ねられている部分が大きいのが実情です。


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